もっと詳しく知りたい任意後見
任意後見利用相談事例 Q&A
1.「任意後見契約」とはどんなものですか?
A. 高齢になると物事を判断する能力が衰えたり、もの忘れがひどくなったりすることがあります。また、それらが認知症という病気によって引き起こされている場合もあります。
このような状態になると、自分の財産の管理やお金の出し入れ、また、例えば保険の契約をすることなど、日常生活上の重要な事柄を、自分一人で適切に処理することができなくなります。
このような場合に、自分に代わって財産の管理や契約の締結などの仕事をしてくれる人、すなわち後見人を定めて、ご本人にとって必要な仕事の代行を依頼する契約が「任意後見契約」です。この契約は、ご自身が健康で判断力もしっかりしているときに、その内容を公正証書の形で契約書にしておかねばなりません。
2.任意後見制度は、どのようにして利用したらいいですか?
A. まずは、ご自身が後見人となってもらう人を選ぶことから始まります。自分が信頼できる人で、かつ事務的なこともきちっと出来る人でなければなりません。後見人は、ご家族・ご親族でも、NPO法人でも、法律の専門家でも、ご本人が信頼できる人を自由に選んで決めることが出来ます。
つぎに、後見人に依頼する仕事の範囲を決めます。「何を、どの程度まで頼むか」、これを書面にして、依頼する範囲を明確にしますが、公証役場には契約書のひな形と代理権目録が用意されていますので、公証役場で事前に確認して、それらに沿って契約書の作成を進めれば良いでしょう。
※代理権目録には、ある程度幅を持たせる形で委任するような様式のものと、事細かに「委任するかしないか」を個別にチェックしてゆく様式のものとがあります。どちらが良いかは、公証人のアドバイス受けて決めてください。
依頼内容の原案がまとまったら、ご本人と後見人が公証役場に行き、公証人が契約内容を説明・確認する手続きを行った上で、公正証書による契約書を作成します。
3.自分の子供を後見人にしたいのですが、可能ですか?
A. 任意後見人になるには特別の資格や免許などは必要ありません。制度を理解して、ご本人のために適切な仕事ができる成人であれば、誰もが任意後見人になることができます。
ご本人の家族、その他の親族や親しい友人でも良いですし、弁護士、司法書士、社会福祉士といった専門家や、NPO法人や社会福祉法人などの法人も任意後見人になれます。
※「欠格事由」といって、後見人になれない場合の規定もあります。
裁判所の調査でも、子供さんが後見人になるケースが一番多いことが分かっています。ただ、複数の子供さんの中から、一人を後見人として選ぶ場合には、他の子供さんとも成年後見制度のことや、兄弟姉妹の役割などについて、事前に十分な説明をしておかれることが、ご家族内でのトラブルの防止のためには大切なことです。
4.後見人の仕事は、いつ始まりますか?
A. この契約を結んでも、ご本人が適切に物事の判断をしている間は、後見人の出番はありません。ご本人の判断力や記憶力が落ち込んで、適切な処理が出来なくなったとき、家庭裁判所に申請して、後見人を監督する立場の人(後見監督人)を選んでもらった時点から、この契約の効力が発生し、後見人は事前に依頼された範囲の仕事を始めることになります。したがって、任意後見契約書を作成して、10年後にようやく後見人の仕事を開始する場合もあれば、契約書は作ったものの、ご本人の判断力が最後までしっかりしていて、後見人は仕事をしないまま終わった、というケースもあります。
5.後見監督人はなぜ必要なのですか?
A. 後見人となった人には、ご本人の金銭の出し入れや財産の管理・処分を含めた、大きな権限が法律的に与えられますので、ご本人のためにその権限を正しく行使しているかを、第三者が常にチェックしていく必要があるためです。
後見人が、ご本人の財産を私的に流用したり、ご本人のためにならない行為をすることを、未然に防ぐために公正・公平な立場の第三者が任意後見人を監督する仕組みです。家庭裁判所が後見監督人を選任してからでないと、後見人はその権限を行使することができません。
6.後見監督人はどのようにして選ばれますか?
A. ご本人、後見人を引き受けた人(任意後見受任者)、ご本人の親族などが家庭裁判所に、後見監督人を選んでもらうよう申請します。ご本人以外の人が申請する場合は、原則としてご本人の同意が必要となっていますので、ご本人の判断力がしっかりしていて、後見人に仕事を頼む必要はないと思っているのに、後見人が勝手に仕事を始めるという心配はありません。
任意後見監督人は家庭裁判所の判断で決定されます。文字通り、後見監督人は後見人の監督をする立場の人ですから、家庭裁判所が信頼できる最適任者が選ばれます。特に、ご本人やその親族などと何らかの関係(利害関係)がある場合は、第三者であっても監督人に選ばれることはありません。
7.後見監督人はどんな仕事をしますか?
A. 後見監督人は、後見人がご本人から受け継ぐ財産の確認に立会います。また、金銭や財産の収支・管理状況について、後見人から定期的に報告を受け、後見人の仕事の遂行状況を家庭裁判所に報告します。
後見監督人は、後見人の仕事の内容や素行などから、後見人としてふさわしくないと判断したときは、家庭裁判所に、後見人を辞めさせる申し立てを行い、また、必要なときは、一時的に後見人の仕事を代行します。
8.任意後見契約の手続きをするには、どんな準備が必要ですか?
A. まず、任意後見制度がどのようなものか、概要を理解しておく必要があります。このウェブサイトの「任意後見の仕組み」や関連記事をお読みいただいて、理解を深めてください。
また、公証役場で直接説明を受けることもできます。
次に、後見人の候補者を決めていただきます。ご家族の中で適任と思われる人がいれば、その方と任意後見制度についてよく話し合って、制度や後見人の役割を十分に理解した上で、後見人を引き受けてもらうようにしましょう。
その次には、「後見人に何を任せるか」を決めることです。ご自身の考えを整理し、また、財産の状況などを確認した上で、依頼したい内容やご自身が気になっている点をリストアップしておきましょう。
手続きに必要な書類は以下のとおりです。
- ご本人 - 戸籍謄本、住民票、印鑑登録証明書
- 後見人となる人 - 住民票、印鑑登録証明書
※契約の当日には、ご本人と後見人を引受ける方の双方の実印が必要です。実印の持参を忘れた場合は、公証人により契約手続きは中止されます。
9.任意後見契約書を作るには、どのくらい費用がかかりますか?
A. 次のような費用がかかります。(公正証書を作成するための費用です)
●公正証書作成の基本手数料 11,000円程度
(任意後見契約単独の場合)
●登記嘱託手数料 1,400円
●登記所に納付する印紙代 2,600円
●郵送料 570円
10.後見人の仕事の費用や報酬は、誰が負担するのですか?
A. 後見人が仕事を開始して、ご本人のために後見人が支出した費用(交通費、通信費など)や、任意後見契約で定めた後見人の報酬などは、ご本人の財産から支払われます。
※契約書に記載された以外の報酬を受け取ることはできません。
11.後見人や後見監督人に対する報酬は、どのように決めればいいですか?
A. 後見人の仕事に対する報酬額を決めておいても、また、無報酬としておいてもかまいません。ご本人と後見人との間で事前に話し合って決め、その内容も任意後見契約書に記載しておきます。
ご家族・ご親族を後見人にする場合は無報酬ということも多くありますが、外部の専門家に後見人を依頼する場合は、それなりの報酬の支払いが必要となります。月額1万円から3万円程度がひとつの目安です。複雑な仕事を依頼する場合には、報酬額の加算も必要となります。報酬金額や支払条件は契約書に明記しておきましょう。無報酬の場合でも、その旨を記録しておいたほうがよいでしょう。
任意後見監督人にも報酬の支払いが必要です。後見監督人の報酬は家庭裁判所が決定します。報酬はご本人の財産から支出されますが、多額なものではありません。月額で1万円~2万円の範囲を一応の目安と考えてください。また地域によって変動することもあります。月額5千円程度のところもあるようです。
12.「後見人がついている」ということの証明になるような書類はありますか?
A. 公正証書による任意後見契約が出来ると、その内容は東京法務局に登記されます。また、家庭裁判所から後見監督人が選ばれ、後見人が仕事を始めるときには、法務局から、後見人の氏名や代理権の範囲を記載した、登記事項証明書の交付を受けることができます。後見人は、この証明書を金融機関や取引等の関係者に提示して、ご本人の正当な任意後見人であることを明らかにすることで、金銭の出し入れや契約などの手続きを円滑に行うことができます。
※登記事項証明書は、最寄りの地方法務局(本局)で入手することができます。
※東京法務局に郵便で請求することもできます。(請求方法などは確認してください。)
13.母は少し認知症の症状が出ているようなのですが、任意後見を利用できますか?
A. ご本人に任意後見契約の内容を正しく判断する能力があれば、契約を結ぶことができます。その判断能力があるかどうかは、公証人がご本人に質問をするなどして確認し、判断します。
公証人が「ご本人は任意後見契約の内容を理解していない」と判断した時は、任意後見契約を結ぶことはできません。この場合には、別に法律で定められた「法定後見」の制度を利用することになります。
14.骨折が原因で寝たきりになっていますので、いまからすぐに日常の金銭管理など頼みたいのですが、どうしたらいいですか?
A. 「任意後見契約」とは別に、「委任契約(財産管理等任意代理契約)」を結んでおけば、「ご本人が自分で判断することはできるけれども、人の手助けがほしい」といったときに、その仕事を代行してもらうことができます。この契約は、「任意後見契約」の作成時に、一通の公正証書として作成することができます。
二つの契約の名称がよく似ているので、混同しないように注意ですが、公正証書契約書作成の時には、公証人がそれぞれの契約の違いや重要なポイントについて説明します。
「委任契約」は、例えば骨折をして寝たきりとなり、銀行にも行けない状態になったとき、この契約に基づいて、委任を受けた人がご本人の代理人として、銀行でのお金の出し入れなどをすることになります。
「委任契約」は、ご本人と仕事の依頼を受ける人との間の、まったく自由な合意によるもので、「任意後見契約」とは別個のものです。「委任契約」と「任意後見契約」を同時に結んでおけば、ご本人の判断力がある間は「委任契約」で、判断力が低下したときは「任意後見契約」に切り替えて、必要な支援をスムーズに引き継ぐことができます。
「委任契約」の場合には、契約を交わすだけで、直ちに委任を受けた人がご本人に代わって仕事を開始することができます。「任意後見契約」に切り替えるときは、ご本人の同意を得た上で、家庭裁判所で任意後見監督人を選んでもらう手続きをします。
通常は、「委任契約」の受任者(代理人となる人)と「任意後見契約」の後見人を引受ける人(任意後見受任者)は同じ人にお願いすることになります。
※このウェブサイトに「拡張型任意後見契約」を説明したコーナーがあります。ぜひ、お読みください。
ただ、「委任契約」においては、受任者の仕事を監督する人を付けるという決まりはありませんので、「受任者が勝手にご本人のお金を引き出していた」ということも起り得ます。そのようなことを防止するためには、NPO法人や税理士などの第三者機関と、受任者の仕事の監督に関する契約を結んでおくのも良いかと思われます。
15.後見契約は途中でやめることができますか?
A. 家庭裁判所が後見監督人を選ぶ前なら、ご本人または後見人は、いつでも契約を解除することができます。当事者のいずれかが「契約を解除する」という趣旨の書面を作って、その内容について公証人の認証を受けた上で、内容証明郵便で相手方に通知すれば契約は解除できます。
後見監督人が選任され、後見人の仕事が正式に始まった後に、後見人を止める場合は、正当な理由があることを家庭裁判所に報告して認めてもらう必要があります。